2024年度の構造工学コース長を務めます中原です.
私は,昨年もコース長だったので,新コース長というのは,おかしな感じもしますが,前例を踏襲して一言ご挨拶申し上げます.
私はコース長5回目です.これだけやりますと式典のたびに挨拶しますので,一部の学生からは校長先生と呼ばれています.長崎大学に赴任して以来,多くの時間を構造工学コースの運営に捧げてまいりました.構造工学コースというのは,他の大学では見ることができないユニークな存在であり,その運営もまた独特なものがあると認識しています.
構造工学コースの最大の特徴は,「これまで建物、橋梁、自動車、船舶、航空機等々の製品ごとに構成されていた学問体系を構造工学を軸に整理統合し、広義の構造物を製作する技術者を育成するという教育・研究体制を構築しています。」という理念です.これは,コース教員を採用する要項にも示されており,構造工学コース教員は,全員,この理念に賛同していることになります.特定の業界や分野に縛られることなく,自由に研究を実施できることが,大学の意義であり,本コースはその自由を最大限に行使できる環境と言えるでしょう.しかしながら,物事は表裏がございます.あまりに研究対象が広すぎて,専門性を伸ばすことができないのではないかとの危惧も耳にします.こうした懸念には,次のようにお答えしています.「専門性というものは,例えば学部4年間とか修士課程を含めた6年間で到達できるようなものでは,そもそもなく,卒業後・修了後の個人が集積する学習の結実である.」です.孔子は,三十にして立つ,四十にして惑わず,五十にして天命を知る.と述べています.天命を知るには,五十年の歳月を必要とするようです.私も学生時代は,ずいぶん気の長い話だと思っていましたが,自身の経験を照らすと,このくらいの時間感覚はすんなり納得できるようになりました.短い大学生活の中で,専門性を完結することは難しいですが,志向することは必要です.くだけて言うと,「好き」とか「面白いな」を見つけることは大切です.ただし,ここに知的というキーワードを付加しましょう.誰しもが好きな,音楽とかアニメとかでなく,自身の知的好奇心を刺激する分野に注目してください.
私の専門は,「耐震設計」です.この「耐震設計」は,想定の範囲を超える巨大地震にどのように対応するのかという課題を含んでおり,「想定外を想定する」という矛盾が存在しています.とても興味深い考え方で,魅了されました.これまで,研究を続けてこられたのも,この興味が持続しているからだと思っています.知れば知るほど面白くなる種類のものが見つかれば,充実した大学生活となるだけでなく,その後の長きにわたり,人生を知的に楽しむことができるでしょう.その先に,皆さん独自の専門性ができることになります.高校生までの,「みんなと同じ答え」の学習からは少し離れて,「みんな別々の個性的な解法」を目指してみて下さい.これが皆さんの専門の礎となるでしょう.
皆さんの個性が輝くような学習法を,本コースで修得されることを期待しています.
2024年度コース長 中原 浩之