第6章 日本・世界の海峡横断橋計画


6.1 吊橋スパンの長大化の歴史

近年における吊橋のスパン長の記録は、図6-1に示すように、1826年のメナイ橋(176m)にはじまって、1931年のジョージ・ワシントン橋(1067m)においてたわみ理論を適用することでそのスパン長を驚異的に延ばしました。 そして現在は、21世紀を目前にしてスパン2000mに届こうとしています。

図6-1にはケーブルの高強度化の歴史も図示されています。 吊橋の主ケーブルには亜鉛メッキ鋼線が用いられてきていますが、その強度はブルックリン橋(1883年)の110 kgf/m2にはじまり、ジョージ・ワシントン橋の155 kgf/m2まで高強度化してきましたが、それ以降は155--160kgf/m2で半世紀以上変化していません。 長大化にはケーブル材料の高強度化が不可欠となります。

図 6-1

ケーブルの高強度化と吊橋支間の長大化の歴史



6.2 日本の長大橋の歩み

わが国における長大橋建設は西海橋(鋼アーチ橋、スパン216m当時東洋一)からはじまったといわれます。 その後、表6-1に示すように、若戸大橋、関門大橋のようにまず九州で長大吊橋が建設され、本州四国連絡橋の建設へ至っています。 若戸大橋は日本ではじめての近代的吊橋で、1962年に スパイラルロープ を使用して、中央スパン長367m、<2車線+歩道>として完成しました(現在は4車線に拡幅されています)。 若戸大橋が建設された約10年後の1972年には、2倍の中央スパン長712mを有する6車線の自動車専用道路橋関門海峡大橋が建設されました。 関門海峡大橋では、力学的有利性からはじめて平行線ケーブル(PWS)が使用され、その後の本州四国連絡橋でもその技術が用いられています。 補剛トラスは、関門、因島大橋では面材による有ヒンジ逐次剛結の架設工法がとられましたが、大鳴門橋以降は、施工はやや面倒ですが、耐風安定性に優れる面材による無ヒンジ逐次剛結の架設工法がとられています。 また、上部工の塗装も若戸大橋の鉛系サビ止め塗料、関門大橋のMIO+塩化ゴム系塗料、本州四国連絡橋のジンクリッチプライマー+エポキシ樹脂+ポリウレタン塗料が選定され、明石海峡大橋では、上塗り塗料にフッ素樹脂が使用されています。 このように長大橋梁建設では、そのつど技術的な問題が生じ、材料的、構造的に解決されてきました。

表 6-1

日本の吊橋の進歩


6.3 海峡横断プロジェクトの概要

6.3.1 世界の海峡横断プロジェクト

海外に目を向けますと、図6-2に示しますように、ヨーロッパ、アジア地域を中心に海峡横断プロジェクトが計画されたり、計画が実現され建設段階あるいは完了したプロジェクトもあります。 なかでも、中国においては長江(揚子江)に架かる大型橋梁を中心に、架橋ブームといった状況を呈しています(表6-2)。 世界各地に計画あるいは建設されている地域の気象・地質条件は大きく異なっています。 北極圏に近く季節風の影響が大きい北欧地域、台風の常襲地帯である東南アジア地域や地震の影響を考慮しなければならないイタリアでの橋梁建設技術には参考となるべき点があるものと思われます。 また、技術的に可能となっても、事業を実施する財源に関する問題も解決していかなければなりません。 欧米のプロジェクトでは、表6-3に示すようにその地域の気象や地質条件によりさまざまな海峡横断計画が提案されています。 これらの計画は橋梁およびトンネル、もしくはその組合せです。地形や経済性からトンネルが選定された計画もあります。 「なぜ橋梁でなくトンネルなのか」を考えることも、計画されている海峡横断道路の実現へ向けての重要な検討事項です。 文献26には世界の海峡横断プロジェクトについて詳しく紹介されています。

図 6-2

世界の海峡横断計画

表 6-2

表 6-3

アジアの長大橋計画

海峡横断計画

さらに、近年、環境問題がクローズアップされています。 オーレスン・リンク計画では、環境保護団体による「すでに汚染されているバルト海の生態系 にさらに悪影響を及ぼす」との反対を考慮して、環境保全に対処した計画がなされています。オーレスン海峡等を経由して北海と繋がっているバルト海は、弱塩水(濃度約0.8%)の湖として微妙な状態にあり、環境影響に対して特に厳しい要求があります。これに対し、構造物の設置による海峡部断面の減少分を海底地盤の掘削により保証して、バルト海の水質を変化させない方法が採られています。またバルト海全体に及ぶ広域的かつ長期的な動植物への環境影響に関しては、これを最大限排除する努力が払われており、建設費130億デンマーククローネのうち8億デンマーククローネが補償浚渫等の環境保全に当てられることになっています。これからの海峡横断計画は技術的問題、財源の問題、経済性などだけでなく「環境問題」も考慮しなければなりません。


6.3.2 日本の海峡横断プロジェクト

わが国においては主要4島が陸路で1つに結ばれた今日、第四次全国総合開発計画の「多極分散型国土の建設」や、東京~大阪~広島~福岡の第1国土軸に集中している機能の分散を図る「第2国土軸の建設」を目指して、次世代の海峡横断計画が各地で進められています。

国土審議会計画部会は、「21世紀の国土のグランドデザイン-新しい全国総合開発計画の基本的な考え方-」を取りまとめ、新しい国土軸として図6-3に示すような「北東新国土軸」、「太平洋新国土軸」および「日本海国土軸」を提示し、第一国土軸である「西日本国土軸」とともに望ましい国土構造の構築を目指し、また各地域の多様な機能の交流・連携を総体として捉えた地域連携軸の促進も提唱されています。 このような国の方針の下に、東京湾口道路、伊勢湾口道路、紀淡連絡道路、豊予海峡道路、島原天草長島架橋、津軽海峡道路、関門海峡道路が新交通軸としての海峡横断道路の計画がなされています(表6-4)。 これらの海峡横断道路の整備の場合、どういう整備手法が採用されるのか、財源問題とも関係し重要な課題となりますが、有料道路制度と償還主義が基本となります。

わが国では、道路公団の高速自動車国道は政府が出資し、本四連絡橋は財投資金等借入金を主たる財源として政府と地方公共団体が出資し、東京湾横断道路では地方活力の活用に加えてさらに民間活力を活用していますが、公共事業中心となっています。 それに対し世界のプロジェクトの場合は表6-5に示すように、民間企業が資金の調達から建設、運営まで一貫して請負う BOT方式 など多様な整備手法が用いられています。 有料道路として成立するためには償還期間内に総収入と総支出を等しくしなければなりません。 社会情勢が低成長時代へ向いつつある今日、将来の償還を確実にし、採算制を確保するためには新設費は安くし、維持管理費などの経費を節約し、金利負担は小さくする必要があります。 収入は料金収入がすべてですが、料金収入を増やすため、人・物・情報が集まるように地域を活性化する努力が必要となります。 次の海峡横断道路では、地形条件から構造物の規模の大型化により多額の建設費を必要とし、また本四連絡橋や東京湾横断道路に比べ採算性がさらに厳しくなることが予想されます。 そのため、開発利益を総収入に加えたり、償還期間の延長、用地費の除外などの方策が提案され、また、新交通軸の整備効果を長期的・広域的に幅広く適切に評価する検討もなされています。

図 6-3

新国土軸

表 6-4

表 6-5

日本の海峡横断計画

プロジェクト整備方法


6.4 技術的課題に対する調査・研究・開発目標

表6-4に示されているように次の海峡横断道路計画にはその多くに現在建設中である世界最長の明石海峡大橋(支間1990m)を上回る超長大橋の建設が予定され、実現に向けての新たな技術的課題の検討が始まっています。 これに加えて、建設省は工費・工期を現在のレベルの1/2にすることを求めています。 このような技術的要求を満足しなければプロジェクト自体が成立しないのです。 建設省では、現在、海峡横断道路構想の実現の可能性が調査されています。 構想の中で最も進んでいるのは、東京湾口、伊勢湾口、紀淡海峡道路です。 この3つの構想と関門海峡道路の新ルートは、地質調査などの技術調査や、整備効果などの社会経済的な調査が行われています。 また、早崎瀬戸と長島海峡を結ぶ島原天草長島連絡道路、豊予海峡道路、津軽海峡道路も基礎的な資料の収集・分析により必要性や実現性などの調査が行われています。 どのプロジェクトも明石海峡大橋の2~3割程度大きな橋梁となります。 事業化を目指すには単なる延長でも不可能ではありませんが、経済的には大きな課題となります。 明石海峡大橋を単純に延長した案に対して、工費・工期を大幅に短縮する必要があります。 工費・工期の削減には、本州四国連絡橋の事業費の高騰と交通量の伸び悩みがその背景にあるのです。 今後の活動方針として同委員会より、今後実施すべき調査、研究、開発目標として表6-6がとりまとめられています。 なお、同表の中期的目標では東京湾口、伊勢湾口、紀淡海峡道路を、長期的目標では豊予、津軽海峡道路を想定したものです。 さらに、今後実施すべき調査、研究、開発目標をより具体化したものとして、長大構造物の検討事項が表6-7にとりまとめられています。

表 6-6

表 6-7

研究開発目標

長大橋の検討事項


6.5 超長大橋に対する研究開発例

平成6年度の土木学会でも「超長大橋スパン橋梁」をテーマに研究討論会が行われました。 ここでは、その中でケーブルと空力弾性振動の制御などについて紹介します。

6.5.1 ケーブル

吊橋上部構造の中でも、スパン長の増加に伴なう自重の増加の著しいケーブルに関して、その材料、設計、施工上の課題が検討されています。 たとえば、図6-4に示されているように、スパン長の増加に伴なう自重の増加は吊構造部に比べてケーブルで著しく、自動車荷重の割合は明石海峡大橋で約8%、スパン3000mでは4%に過ぎなくなります。

したがって明石海峡大橋の中央径間長をはるかに凌ぐ吊橋の実現のためには、これまで使用されてきたものより高強度かつ軽量のケーブル材を開発する必要があります。 現在、220 kgf/m2級鋼線の開発、実用化とともに、炭素繊維やアミド繊維などを用いた新素材の長大橋への適用可能性について検討されています。 また、吊橋のケーブルの許容応力度の引張強度に対する安全率は、アメリカでは約2.8、イギリスでは約2.3が用いられていますが、日本でも2.8からはじまり、瀬戸大橋では2.5、明石海峡大橋では2.2と常に見直されています。 超長大橋ではさらなる見直しの余地が残されているといわれています。

図 6-4

中央支間長と自重

6.5.2 空力弾性振動とその制御

中央径間2500mクラスあるいはそれ以上の吊形式橋梁を考える際、経済性、維持管理の面から、もはやトラス補剛桁はありえず、偏平箱桁主体の構造となります。 また斜張橋では構造的に難しく、吊橋を主体とする形式が対象となります。 図6-5に新しく提案されたケーブルシステムの一例(文献22)を示します。 偏平箱桁の空力弾性振動では、曲げとねじりが連成した曲げねじれフラッターが所要の設計照査風速以下で起こらないようにすることです。 フラッター風速を向上させる策としては、表6-8のような研究・開発が進められています。

表6-8で1(a)~(c)は塔・桁・ケーブルからなる吊りシステムのねじれ剛性を高めることを企図したものであり、固有振動数は1~3割程度向上します。 注目すべきことは、傾斜ハンガーを用いることにより、ねじれ固有1次モードの形が大幅に変わることです。 つまり、桁のねじれ変形に桁の水平変形が加わり3次元的な形状を示します。 これは、モード(一般化)質量が増大することを意味し(その量は2倍近くにもなります)、質量付加を行わずして結果的には次の質量付加的な効果を期待できることになります。 減衰付加は、近年急激な進歩を遂げている振動制御技術を応用したものです。 TMDやアクティブTMDでは曲げねじれフラッターは減衰付加による効果が大きくないためその効率性が問題となりますが、アクティブジャイロダンパーはその中では効果の期待できる方法だと考えられます。 フラッターは強風中での現象であり、その強風下での空気力を利用する補助フラップをアクティブに制御してフラッターを制御する研究も進められています。 非常に少い外部エネルギーで制御が可能となります。 自励空気力の低減に関しては、これまでも断面形状の最適化、付加物によるさらなる特性の改善などが行われてきています。 また、ジェットの吹出し、回転ローターあるいは外部刺激(例えば音響付加)により剥離流をアクティブに変化させる方式も提案されています(文献28)

図 6-5

新ケーブルシステムの例

表 6-8

フラッター風速向上策

橋の文化とテクノロジー

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