1章 まえがき


人工の橋の起源は石器時代にまで遡るといわれています。 最初は単に、川や谷の向う側へ行きたいという希望から架けられたのでしょうが、やがて 人々のコミュニケーションの場となり、詩歌や絵画や映画などの芸術の題材となり、また 幾多の伝説や伝承を生んできました。 橋は渡るためだけのものではなくなり、周囲の自然や環境と溶け込み、一種の文化財にも なっていったのです。

人々は生活を豊かにするためにより長い橋の建設を要求するようになりました。 産業革命で鉄の出現と構造力学・構造形式の進歩が相俟って橋の建設技術も急速に進歩し、 長大橋が建設されるようになりました。 しかし、長大橋の建設は順調に進んだわけではありません。 イギリスでのテイ橋、カナダのケベック橋、アメリカのタコマ橋では、それまで人々が考 慮していなかった原因により落橋してしまいました。 今日の橋の建設技術の進歩は多くの事故と犠牲の教訓からなりたっているのです。

平成7年の阪神・淡路地震でもこれまで考慮していなかったような地震力により多くの橋 梁が被害を被りました。 地震により橋が落橋し交通が遮断され、その周辺地域はいうまでもなく日本経済全体に大 打撃を与えました。 現在、直下型地震に対する耐震設計の見直しと、耐震補強工事が行われています。

また近年では、経済圏や国の政策として超長大橋の建設が計画されています。 とくにヨーロッパや東南アジアでは多くの超長大橋の建設が計画されています。 日本でも明石海峡大橋のように世界一の長さとなる橋が現在建設されており、さらに明石 海峡大橋のスパン長を超える超長大橋の建設が計画されています。 これらの橋の建設の実現ためには、材料、構造に関する新技術の開発が不可欠です。

さらに、近年の社会状況が高度成長から低成長時代へと変化し、橋梁構造物に対しても新 設から既存橋梁の維持・管理・補修・補強についての関心が世界的に高まっています。 とくにドイツでは、如何にして既存橋梁をグレードアップし大量の車両交通を通行させる かの関心が高く、その方面の技術にはすばらしいものがあります。 長大橋建設はやめたといわれているほどです。

このように橋は、隣の生活圏、文化圏との境界に設けられ、人々にとっては単なる障害物 を乗り越える手段にととまらず、憧景、友好など、特別の意味合いがこめられた存在でも あります。 ここでは、橋の構造や歴史、橋の技術の進歩の変遷について有名な橋を例にとって概説し ますとともに、ドイツのライン河に架かる橋、パリのセーヌ河、ロンドンのテームズ河に 架かる橋などについて紹介します。

地球上に一ヶ所として同じ風景がないように、橋の素材、形、色などもまったく同じもの は二つとありません。 荘厳な橋、簡素な橋、軽妙な橋、華麗な橋等々、環境とも相俟って、その印象もさまざま です。 日本の各地やドイツのライン河、パリを旅行されるときなど今までと違った見方で橋をみ ていただければ幸いだと思っています。

この原稿を書いているとき、橋のメルヘンともいうべき世界を描いている本を見つけまし た。 「歴史と伝説にみる橋」です。 橋の技術的なことにはまったく省いてあり、文明や人類の思想、芸術などに関連して、橋 のもつ意味をあきらかにしようと記述されています。 読んでいて楽しい本です。


橋の文化とテクノロジー

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